F.キミと俺。
「ゆ、柚木さん......」
廊下に出るなり、すぐさま小声で耳打ちして言う俺を、柚木さんはドンッと押しのけた。
「ばかっ、耳打ちとかしてたら余計怪しまれる!」
人差し指を口に当てて、シーッと一回言ってから、柚木さんは俺に背を向けて続けた。
「とにかく、いつ戻れるかわかんないけど、今日辺り雨降るらしいから、雷に期待してみる価値あるかも」
「なんで期待なんか....」
「テレビとかでなかった?何かの衝撃で入れ替わっちゃうって話」
そう言われてみれば、あったようななかったような。
柚木さんがどんな表情で言ってるのか後ろからじゃわからないけど、この体勢はきっと周りから見ても怪しまれずに、かつ自然と話すことができる最善の考えなんだと、俺は勝手に解釈している。
「じゃあ、雷が鳴ったときがチャンスってことか」
小さく呟くと、柚木さんはかすかにこくん、と頷いた。
とりあえずそこで話は終了。
これ以上の会話は、いろいろ危険な気がする。
俺達は(一応)別々に教室へ入ると、元の場所へと戻っていった。
「やっほ、りんご!」
気持ちを切り替えて、俺は柚木さんになりきることを、改めて固く心に決意した。
「おかえりー、どーしたの?」
どーしたって......
ほんとだ、俺どーした?ww
普通、友達からして見れば異性の手を急に掴んで、それで相手も何かを察して気を使って2人で廊下へ出て行く。
そんな怪しすぎる異様な光景、どーしたって聞きたくなるに決まってる。
けど、そんなこと予知すらしてなかった俺は、嘘に嘘を重ねてでっちあげの文章を生み出すことになる。
「ちょっと、本を返してもらってて」
「本は?」
「あ......や、今日持ってきてなかったって言ってた!」
「それだけ?」
「そ、それだけ....です」
質問攻めしてくる大嶋さんの視線から目を離すと、『怪しい』視線がすぐ飛んできた。
や、やっぱりダメだ。
今日仮に元に戻れるにしても、1日騙し続けるなんて、絶対できない!
てか、ほんとにいつかボロがでる。
幸いなことに、琥陽さんは気付いてないみたいで、机に向かって何か描いている。
柚木さんなら......見に行く、よな?
俺は怪しい視線を向けてくる大嶋さんをどうにか避けて、琥陽さんの席へとそそくさと移動した。
「ちーよちゃん!」
頑張ってにこっと笑いかけながら、『なに描いてるのー?』と言いながら紙を見る。
.......何々、
人が3人いて...........え、みんなおと((((-----ガバッ
「わわっ......なんだ、りんちゃんか〜!」
俺は一瞬目にした、衝撃的なイラストをなかなか忘れることができずにいた。
だって、なんか俺のよく知ってる人に似てたような、似てないような。
「びっくりさせちゃった?」
隠すほど、人に見られたらダメなものっぽいし、一応俺は触れないことにした。
「あっ、雨......」
そう言った誰かの言葉に、俺は目を大きく見開いた。
窓の外を見ると、大粒の雨がたくさん降ってた。
そういえば、今日体育あったような?
この分じゃ、体育はなしかな。
男子は組み体操の練習だし、柚木さんもホッとしてるんだろうな。
まぁ、女子はダンスだから俺も人のこと言えないんだけど。
だって、俺ダンス覚えてないし!
てか、雨絶対放課後までもってくれよ。
それで、ついでを言うと雷も鳴ってくれよ。
※全力で空に向かって願う楠野くんでした※
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